【ネタバレ・感想】「娼年」(2018)~女の欲望の底深さと、その受け皿~
こんにちは。秋も深まり人肌恋しさの募る季節がやってきましたね。すと子です。
今回は松坂桃李主演の「娼年」(2018)(公式サイト)を観ました。

「劇場で観るのは恥ずかしい…けれど興味ある…」という葛藤を繰り返しているうちに、いつの間にか観る機会を逸してしまった作品です。
内容的に、とてもシラフでは観られそうになかったので、Amazonから届いたばかりの「ジェムソン ブラック・バレル」をお供に楽しみました。

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作品情報と概要
作品情報
- 監督・脚本:三浦大輔
- 原作:石田衣良「娼年」(集英社)
- 製作:小西啓介/松井智
- 出演:松坂桃李/真飛聖/冨手麻妙/猪塚健太/桜井ユキ
- 公開年:2018
- 製作:日本
- 上映時間:119分
- 映倫区分:R18+
概要
女性を見下し、女性との行為も「手順の決まった、つまらない運動」と見なしていた大学生・森中領(松坂桃李)は、下北沢のバーテンダーのアルバイトをしていたところを、御堂静香(真飛聖)に、彼女の経営するボーイズクラブ「クラブ・パッション」で、娼夫として働かないかとスカウトされる。
試験として、聾唖者のサクラ(冨手麻妙)との行為を採点された領は、ギリギリ合格を果たす。
そして領は、数々の女性客を相手にし、彼女たちの抱えている欠落と欲望を受け止めることで、今まで自分が見下してきた女性と、女性が抱える欲望の奥深さに、のめりこんでいくことになる……。
以下、がっつりネタバレなのでご注意を。
あらすじとネタバレ
領が娼夫になった理由
主人公の領には、ボーイズクラブの女社長から、娼夫になるかならないかの選択肢が与えられていました。
しかし、女性を見下し、女性との行為(=コミュニケーション)を、静香によって客観的に採点された領は、静香からこう告げられます。
「二人ですれば素敵なことを、貴方は一人でしてる」
「人は探しているものしか見ようとしない」
独善的な行為、女性に対しての視野狭窄を指摘された領は、自身が見ようとしてこなかった女性の正体を求めて、静香のクラブに所属することを決めます。
領を買った女性たち
麹町の女・サクラ
サクラは実はボーイズクラブを営む静香の実の娘であり、彼女の商売を手伝うために、静香がスカウトしてきた男の技術をテストすべく、領に抱かれます。
生まれつきの聾唖者であるサクラに対して、領の一方的な行為は通じず、双方向のコミュニケーションの大切さを、領は教えられます。ちなみに、彼女との行為に静香がつけた値段は、5,000円。サクラの温情でプラス5,000円がなされ、領は見事にボーイズクラブ「クラブ・パッション」への合格が決まったのでした。
渋谷の女・ヒロミ
ヒロミはとても色っぽい、「ザ・年上の女」という雰囲気の女性です。男女の年齢差についてどう思っているか、正直に答えてほしい。そう領に聞くと、彼は年の差について肯定的な意見(正直な意見)を述べました。
すると翌日もヒロミは領を指名し、今度は露出度の高い服で彼と会います。そしてホテルに向かい、行為に及ぶ二人。
ヒロミは、単なる女性としての魅力は十分に持っているし、自身でもそれは自負しているものの、世間が言う「アラサー」「アラフォー」「アラフィフ」などの区分と、それによって生まれる異性からの視線を気にしてしまう……そんな女性なんだと思いました。だから、年相応に振る舞いすぎて、年齢を意識しすぎて、大胆にはなれない。
もっとも、領はその壁を一気に壊してしまえるくらいの包容力(受容力?)を、奥底に持っていたのですが。それがヒロミによって引き出された、という感じでした。
表参道の女・イツキ
プラトンを愛読書とする、知的な雰囲気の年上女性・イツキ。しかし彼女には、なかなか人には明かせない欲望がありました。
それは、放尿する姿を男性に見てもらうことで、絶頂に到るという自身の性癖。しかも、自分と同等の知的レベル・文化的背景を持った異性に、その姿を見てほしい。
中年の女のそんな姿を見たくないというなら、素直に出て行ってくれて構わない。料金はきっちり払うから。そう言うイツキに対して、ちょっと面食らう領ですが、すぐにイツキの欲望を受け入れることを決めます。もうここまで来ると、領が聖女(?)に見えてきます。「罪と罰」のソーニャみたいな。娼婦かつ聖女みたいな。
領はここで、女性の欲望の突拍子の無さ、際限のなさを、直に感じ、受け入れていくことになります。
池袋の女
夫とのセックスレスに苦しむ女性を、領は優しく抱きます。もはや、女性の性欲に対しての怯えなど、領にはありません。
熱海の泉川夫婦
この夫婦はちょっと変わっています。熱海の温泉宿に呼ばれた領は、そこで糖尿病により下半身不随になったという、車椅子の夫と、その若妻に会います。なんでも、妻を抱けなくなった自分の代わりに妻を抱いて欲しい、自分はその場面をビデオに収めるから、と。
そう言う夫の性癖どおり、妻をややサディスティックに抱く領ですが、下半身不随だと思っていた夫が、その場面を見ながら興奮して自慰を行います。なんでも、あとから聞くに、この夫婦は毎度、ネトラレビデオを撮影するために、凝ったシチュエーションと小道具を用意しているのだとか。
女性の純粋な欲望だけでなく、夫の欲望と、それに応えようとする妻の献身に触れた領なのでした。
鶯谷の老女
観ていてビックリしたのですが、つい先日お亡くなりになった、江波杏子さんが出演しておりました。
江波さん演じるこの老女、御年七十歳になるらしいのですが、なんでも、いい男の手を握り、相手の素性や過去、悩み話を聞いただけで、絶頂に到れるらしい。曰く、「年をとれば、女はこんな芸当もできるようになるのよ」と(私、なれる気が全くしない)。
領はちょうど、大学の女友達・メグミに娼夫の仕事がバレてしまったこと、そして「汚い仕事」と罵られてしまったことについて、悩んでいました。
新宿の女・メグミ
そして、とうとうメグミの登場です。ここで、領にとっての「昼の自分」と「夜の自分」が交差することが、メグミによって迫られます。
領は領なりに、娼夫の仕事に誇りを持っていました。女性の欠落を埋められる仕事、必要とされている仕事。
「それなら、家族や友人が働いているこの昼の時間に、私を抱けるでしょ?」
メグミは領のことが好きでした。しかし領は、その好意には応えられず、あくまでプロの娼夫として彼女を抱きます。
領が求めていたもの
領は10歳の時に、母親と死に別れました。母親が家を出る前に残した最期の言葉、
「暖かくして、いい子で待っててね」
それが、10年経った今でも、領を縛っていました。
そして、母親を失った喪失感、母親を求めてしまう気持ちが、年上の女性への憧憬へと繋がります。
その憧憬が、母と同世代の女性を知りたい、受け入れたいという無垢な欲望が、彼を、極めて受容力の高い娼夫にまで育てたのだと思います。
しかし、領が心から求めた女性は、客ではなく、ボーイズクラブの女社長・静香でした。
静香に褒められたい、その一心で、彼は女性客に対して献身的に仕事をこなしていました。
仕事の出来を褒められた領は、静香に「何か欲しいものはないか」と聞かれ、「貴女と付き合いたい」と率直に答えます。ただ、静香には、それに応えられない事情がありました。彼女はHIVポジティブだったのです。
それを聞かされた領は、もう一度サクラを抱くから、それを静香に見てほしいと告げました。静香の娘であるサクラを抱くことで、その後ろにいる静香の精神をも抱こうとする領。ちょっとこのシーンは、三人の喘ぐ姿が交互に映されて、ギリギリ笑いそうになったところですが、領と静香の気持ちを考えると、若干切ない気持ちにもなりました。
結末
ラストは、領の所属していたボーイズクラブが摘発され、静香は領の知らぬところで逮捕されます。
それでも、クラブは静香の娘・サクラが切り盛りし、売れっ子も居座り続け、領は鶯谷の老女の七十一回目の誕生日を共に迎えることになります。
領は、今度こそ「昼の自分」と「夜の自分」とを融和させ、娼夫という天職に身を捧げたのだと思います。
感想
正直、ただのポルノ映画かと舐めていました。
けど、十人十色の欲望と、それを受け入れてしまう主人公の欠乏の深さを観ていくうちに、「これは人間をやっていく限り、他人事ではないなー」と思いました。
うーん、しかし「人狼ゲーム」「闇金ドッグス」に出演していた冨手麻妙ちゃんの濡れ場があるなんて、思ってもいなかった……彼女、演技力高いし、もっと色んな映画に出てもいいと思うんですけどね。
やー、しかし俳優さんって凄いなーと、改めて思いました。
すと子